ドルニエ

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 お客さん、終点ですよ、と紋切り型の台詞が降ってくる。私は携帯から目を上げて、終点ってことは始発ですよね。お構いなく――とだけ返して視線を落とす。掃除があるんで、と制服は言う。足を上げるのでその下を掃けばいいじゃないですか、と今度は顔も上げずに返すと、一旦出ていてください、終わった呼びますから、と言う。キセルにならないんですか?と問うと、私は困らないんで、と言って制服は重心を崩してラフな立ち姿になる。...足しか見えないけれど。面白い乗務員さんですね、と顔を上げると、制服は意外と爽やかな顔立ちをした若い人だった。知りませんよ、会社に怒られても。 怒られてばっかですよ。 だったら真面目にやったらどうです? そういうのは他の人が勝手にやりますよ、鉄道会社ですから。 日勤教育とか。 ああ、あれ違法だってことで禁止になりました。ざまあみろです。 始末書とか。 そんなもの寝ながら書けます。 減給とか。 連れ合いがいっぱい稼いでいるので。 いやいや。 宝くじも当たりましたし。一等。 はぁ? 予定ですけど。 予定...
 それはそうとそろそろ降りてくれませんか? ああ、もういいです。あなたの相手のほうが面倒です。 ご協力ありがとうございます。ところで...
 キセル、ってご自分で言いましたよね。一応切符、見せてもらいますよ?

8/10/2023, 1:17:23 PM