『私の名前』
たかが名前、されど名前。
軽く考えていた私はこの時、自分のしようとしている事の重大さに気付く事無く、己の欲を叶えたいが為に願いを叶えてくれる魔女の元へ会いに行った。
なんでも願いを叶えてくれる噂の魔女。
けれど対価を払わなければならない。
対価は『名前』
なんだ、たかが名前じゃない。
大したことはない。
私は二つ返事で対価を渡す約束をした。
自分の過ちに気付くのは願いが叶った次の日。
人々の記憶から私の名前は消え去っていたのだ。
家族や友達の記憶からも。
誰も私の名前を呼ばない。
書いていたはずの私の名前も消えていて。
私が口に出すことすら出来ない。
私の名前はこの世から永遠に失われていた。
名前が消えると人は記憶出来なくなっていくものなのだろう。いつしか私の存在そのものが人々の記憶から少しずつ消えていく。
君……誰?
見かけない顔だね。
初めまして。
名前の変わりに私に掛けられる言葉達。
けれど、名前のない私は人々の記憶に残らない。
だから、また同じように声を掛けられる。
それの繰り返し。
そうして私自身も記憶に残らなくなり、自分が誰だか分からなくなっていった。
名前はその人を形作る魂そのもので、あの魔女の対価は魂だったんだと気づいても後の祭り。
ネェ、ワタシハダァレ?ココハ……ドコ?
7/20/2022, 3:25:40 PM