消えない焔(オリジナル)(異世界ファンタジー)
声にならない叫び声をあげて飛び起きた。
全身にびっしょり汗をかいている。
荒い息をつきながら、胸元のシャツをギュッと握って痛みに耐えた。
痛いのは、心の臓ではなく、心。
いつもの夢を見た。
まだ夜は明けておらず、宿の部屋は真っ暗で、シンとした空気があたりを包んでいる。
誰にも気づかれなかったようだ。
ラッツは安堵の吐息をついた。
夢の種火は常に燻っていて、少しのきっかけで容易に燃え上がる。
今回は、久しぶりに合流したネオと酒場で情報交換をしているうちに、周囲の冒険者達を巻き込んでのドンチャン騒ぎになったことが原因だろう。
楽しかった。
だからこそ。
まだ10代の若い頃、孤児院の仲間3人とパーティを組んで冒険者になった。
当時、無知ゆえの万能感に溢れていた。
だから、禁忌に手を出した。
自分たちなら、何が起きても、きっとどうにかできると考えて。
今の技術では到底造れない古代の遺物を手に入れようとして、封印を解いてしまった。
今とは比べ物にならない強力な魔術時代の封印を。
そして、封印を解いた者に対する強力な呪いが発動した。
ラッツは洞窟の最奥で封を解くと同時に気を失い、次に目を覚ました時は洞窟の入り口にうつ伏せで倒れていた。
洞窟の入り口は巨大な岩が崩れ落ちて埋まっていた。その石の下から、見覚えのある手甲をした手が。
こちらに伸ばされるような形で、手首から先だけが。地面を真っ赤に濡らして落ちていて。
その時の情景が。
その後、洞窟を独り掘り進め、皆の変わり果てた姿に現実を突きつけられた慟哭が。
今も鮮明に夢で甦る。
封印を解こうと希望したのは自分だった。
仲間が持つドラゴンの魔防マントに対抗して、何か強力な物を、自分でも持ちたかった。
気を失った自分を、仲間が出口まで運んでくれた。
何の落ち度もない仲間の方が死んでしまった。
彼らの輝かしい未来を奪ってしまった。
そのせいだろう。
楽しいことがあると、己を戒めるように夢を見る。
己にその権利があるのかと。
知らなかったからといって許されるわけもなく、
しかし、孤児ゆえに謝るべき生者もなく、
許してくれる人もなく、
許されたいとも思っておらず、
罰されたいと思いながら、
罰してくれる人もおらず。
だから、種火のままいつまでも。
取り返しのつかない過ちに対する後悔と、彼らの歩めなかった未来を楽しんでいる事への罪悪感で、あれから10年以上経った今でも、ささいな事ですぐに轟々と燃え上がる。
大丈夫。もう巻き込むような仲間はつくらない。
助けられた命、彼らの分まで精一杯生きる。
決して彼らの事を忘れたりしない。
しでかした事も忘れない。
彼らの形見を胸に掻き抱き、ラッツは早鐘を打つ心臓を宥めるように、深く深く息を吐いた。
夜明けまでは、まだ、遠い。
10/27/2025, 1:32:31 PM