みんみんどり

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星座言葉も少し意味合いを考えてみました。
気になる方は調べてみてください。
高校生ぐらいの設定です

───

友達に誘われて地学部に入部した。
先輩ばかりだったけど、友達がいるからいっか〜なんて思ってた。
でも、友達はやっぱり先輩と楽しく話している中で会話には入ることはできない。昔からそういう性格。この空気を壊してしまうとでは、と心臓がどくどくして口が動かせなくなってしまう。

そんな時、あなたに会ったんだ。

───

「この方向が南だから、上見れば…ほら」
「あ、ほんとだ」

くすくすと優しく笑う一つ上の先輩は、帰り道にいつも星座の見方を教えてくれる。
今日は、やぎ座。
秋という微妙な時期に「先輩が引退して部員が減るから」という人助けらしい理由で入部した私だったけど、孤立しかけていた時に声をかけてくれたのが、この先輩。

「この星座はちょっと低い位置にあるから見えにくいんだけどね。見えて良かった」
「ですね。…きれいだなぁ…」

ほぅ、と冷たさが肌に刺さるようになってきた時期に一つ息をつく。
学校を出る前に買ったほっとレモンをぱきょ、と開けて一口飲むとじわりと温かさが広がる。

先輩はじっと私を見つめてくる。何ですか?と対抗するように私もじっと見つめ返す。

「…何見てるんですか。星座見てた方がいいと思いますよ」
「ふふ、ごめんね?君から見る星座の方がよっぽどきれいだったから」
「…なに言ってるんですか。早く帰りますよ」

先輩は時々、変なことを言う。
きっと私の事好きなんだろうな、と思いたくなくても思わせてくるほどに。まったく、呆れてしまう。先輩だけども。
というか、私の瞳に映る星ってそんなに見えるの?
先輩視力良すぎでしょ。
…目を逸らしても視線を感じる。
これはもう素直に聞くしかないな、仕方ない。

「…先輩って、もしかしてなんですけど」
「君のこと好きだけど、どうかしたの?」
「…アピールしてたんですね」

自白しやがった。
照れることをさらっと言うもんだから私の方が恥ずかしい。何させてるんだ。心の声だけはこうやって言わせて欲しい。何させてるんだ!

「照れてるのも可愛いね」
「可愛くないです」
「…で、付き合ってくれる?」
「嫌です。お断りします。」
「固いなあ。…でも、こうやって言ったからには僕も本気出しちゃうからね」
「好きにしてください」
「ふふ、可愛い」

んもう、煩いなあ!こっちの気持ちにもなれよ!
と、言える訳もなく「そうですか」とだけ言って無理やり会話を終わらせた。

「じゃあ、気をつけて」
「ありがとうございます。…また明日」
「うん、明日ね」

ついてくるかと思ったけど、そこまでデリカシーがない人では無いらしい。よかった。

───

あれから3ヶ月ほど。

私はあの先輩にころっと落ちてしまった。
今まで私を見つめていた瞳も、いじらしい性格も、時に見える優しい気遣いも、意識し始めた途端だ。こう、ピタゴラスイッチのボールみたいに、ころっと。大好きになってしまった。私だけにそうして欲しい、と思うほどである。かなり重症、でも事実。悔しい!

今日も今日とて部活帰りに2人で星を見ながら帰る。
入部した時は他の先輩達も「みんなで帰ろー!」なんて言ってたけど、今となっては先輩が気持ちを表向きにしているのもあって部内の公認カップル(未定)になってしまった。そのためみんなで帰る、なんてタイミングはなかった。それが功を奏しているのだが。

「ずっと思ってたんですけど」
「僕のこと好きだった?」
「違います」違くないけど。過去形でもないし。
「先輩って、方角どこにいても分かりますよね」
「んー、そうだね。それなりに星見てれば」
「私は全然分からないので。さっぱり。」
「教えてあげようか?」
「え、いいんですか?」
「もちろん。僕たちがいなくなったら頼れなくなっちゃうからね」

方位磁針か羅針盤あればいいけど。

そう言いながら、夜限定の方角の見方を教えてくれた。
あれが北極星で、この時期に南に見えるのはアルデバラン───
二人でぐるぐる上を見ながら星を見る。ちらっと見た先輩の顔は、空気が澄んでいるせいかキラキラして見えた。思わず、かっこいいと思ってしまう。絶対言わないけど。

「───って感じかな?」
「ありがとうございます、頑張って覚えます」
「うん、頑張って。」

にこにこしながら答える先輩は変わらないのに、どうしてこんなにも心臓は激しく動いているのだろうか。
これが好きという感情の証明なのだろうか?

「…わかんない」
「何が?」
「私の気持ちです」
「難しいこと言うね」

一拍考えたあと、先輩は上を見て言った。

そんな時はね、上を見てみるんだよ。
       きっと星が教えてくれるから。

「…キザなこと言いますね」
「でも、事実だよ」
「私方角分からないので星もわかんないです」
「せっかく教えたのに」
「頑張るので許してください」
「いいよ」

先輩が言うことは、分かるようで分からない。
自分探しも含めて星を見ろ、ということなのだろうか?

「どうしてもわかんない時は僕に言ってね」
「方位磁針じゃだめですか?」
「だめ」
「なんでですか」

そう言うと難しい顔をした後にぱっと私の顔を見つめてきた。
この表情、この瞳が私を熱を孕んで射抜いてくれていたのはいつからだっただろう。


「僕を君だけの羅針盤にしてくれてもいいんだよ」


夜空も人生も、私はこの人がいないと分からないままなのかもしれない。


───おまけ───


「先輩を羅針盤にするって、そんなぞんざいに扱っていいんですか?」
「人の例えで言うでしょ、羅針盤のような人っていう。もし物の羅針盤でも、ぞんざいに扱っちゃだめだよ」
「初めて知りましたその表現。あとぞんざいに扱うのは先輩の方です」
「なおさらひどいよそれ」


20250121   【羅針盤】

1/21/2025, 11:37:24 AM