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 梅が綻びはじめ、街道に白い水玉模様ができていた。
 待ち合わせ場所に先にいた友人は私を見つけ、跳ねながら手を振ってくる。そんなに跳ねなくてもちゃんと見えているのに。素直な喜びは私に伝染して足取りを軽くした。
「ごめんね、待ってた?」
「ううん。さっき着いたとこ」

「久しぶり」とお互い笑顔を見せあって茶屋へと入る。
 友人はあんみつを、私は白玉ぜんざいを受け取り店員が緑茶を注ぐ。紅茶やコーヒーを飲むことが多く、片手で数えるほどしか飲んだことがなくてもこの香りはホッとさせてくれるものがあった。あんこが甘い分、味は濃くてちょっぴり渋い。

 友人に会う時、私は決まったことを尋ねる。

「今度はどんな冒険をしてきたの?」
 
 友人は世界に好かれているらしく行く先々で問題が起きる。けれど旅の仲間たちと共に見事に解決してしまうのだ。小さな困り事に留まらず国を揺るがす一大事すら。遠くの国まで語り継がれてここまで届く。たまに私も手伝うことがあるが規模が違う。
 今回も聞きしに勝る物語だった。そこに居るかのような臨場感、聞く度に話が上手になっている。冒険譚と白玉のどちらも美味しくて、こんなに穏やかな場所に国の救世主がいることに興奮が治まらなかった。

「はい、彼から頼まれ物」
 厚めの封筒が手渡される。私と友人が会う本来の理由でお茶はついでだ。
「いつもありがとう。配達員じゃないんだし断っていいんだよ?」

 友人が街にくる時は必ず、彼は私宛の荷物を託した。普通に送ってくれても問題はないのに「何があっても届けてくれるから」と絶対の信頼を寄せている。

「会ってお茶する口実になるからいいの」
 彼は友人が荷物を渡すだけだと思っているらしい。まさかお茶してるなんて考えてもないんだとか。「彼にバレたら面倒だから内緒だよ?」ペロリと舌を出していたずらっ子の顔をする。

 私が友人とお茶をして、街の人たちの『平穏な日常』の一部になっている裏側で、彼は刺激に満ちた日常を過ごしている。

3/12/2023, 9:53:25 AM