バスクララ

Open App

彼女は筆まめな人だった。
僕とは遠く離れているというのに、もう先生と生徒という間柄でもないのに、毎月はがきを送ってきた。
『こちらは桜が見頃です』や『最近こいのぼりを上げるお家も少なくなりましたね』など、季節のことから始まって彼女の近況が綴られている……毎回そんな感じだった。
そのはがきが来る度に僕は絵はがきを買って、同じように近況を綴っていた。
だけど、ある時からパタリとはがきが来なくなった。
丁度その頃僕も仕事が忙しくて気にはなりつつも何もしなかった。
そして、仕事が一段落した頃だった。
彼女の訃報が届いたのは。
僕は急いで有給を取って新幹線に飛び乗った。
棺の中で眠る彼女は最後に会った時よりも痩せてたけど、いつもの優しい笑顔を浮かべていた。
告別式が終わった後、彼女の娘さんから分厚い本を渡された。
それは十年日記だった。
娘さんは言った。この日記をあなたに贈ります。母もそれを望んでいるだろうから。と。
最初はもちろん遠慮した。だけど押し切られる形で受け取ることになった。
……あれから数ヶ月経つけど、未だに開く勇気が持てない。
僕なんかが彼女の思いを覗き見しても良いのだろうか。
そもそも僕なんかが受け取っても本当に良かったのだろうか。
そんな思いがグルグルと巡る。
引き出しに眠る閉ざされた日記はそんな僕を見て何を思ってるのだろうか。
あなたらしいわといつものあの顔で笑っているだろうか。
……それすらも僕の思い上がりかもしれないけど。

1/18/2026, 2:34:15 PM