徒然

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日がまた昇る。
嫌な事が沢山あった。でも楽しい事も沢山あった。そんな一年だったと思う。
大晦日、今日も今日とて残業をさせられるブラック企業に文句を言いつつ、終電間近の電車にのる帰り道。
街中は賑やかに煌めき、沢山の人々が行き交っている。皆楽しそうに言葉を交わしながら、赤くした頬から白い息が漏れる。アルコールの匂いを漂わせている彼らの関係は友達か同僚か、或いは恋人だろうか。家族団欒の人間はもうこんなところに居ないはずだ。どんな関係でも私には関係ないが、何にせよ年の瀬に楽しそうなのは羨ましい。
私は日付が変わるまでに帰れるだろうか。すっかりくたびれた就活スーツにヨレヨレのカバン。靴づれをしなくなったパンプスで、人混みを抜けて駅へと向かう。
楽しそうな人の声や美味しそうな匂いが私を惨めにさせた。
こんな筈じゃなかった。そう思って何年目だろうか。今年も一年この会社でこき使われて終わるのかと思ったら涙が出そうだった。

電車で揺られ3駅。最寄り駅は街灯も少なく住宅街は静寂に包まれている。まるで自分の心の中のようだと思いながら、今日はなんとなく近くのスーパーに寄った。
24時間営業。年の瀬にも同じ様に開けてくれているのはありがたい。この店の人達は仕事をしながら年を越すのかと思うと、家に帰れるだけ私はマシかもしれない。
駅前の小さいスーパー。品数の少ないながらも、すっかり正月色に染められた店内は、餅ばかりが目立っている。他の生鮮やお惣菜はすっかり消え去っていた。これが年末なのか。
幸い明日は休みだ。元旦は会社全体が休業日、明後日からは当たり前に仕事が始まるが、それでも1日休みなだけ良い。

年末だからと、普段は飲まないお酒を手に取った。生ビール缶、年末位は奮発したって許される。こんな時間まで残業したのだから。
残りものとなった惣菜を数点と、柿の種をつまみに買ってスーパーを出た。冷えきった暗闇に白い息が浮かぶ。

遠くの方から除夜の鐘らしき音が聞こえた。ボーン、ボーンと、一定のリズムで鳴っている。そう遠くない所にお寺があった筈だ。あそこの鐘の音だろうか。音が聞こえるということは、そろそろ年が明けるということか。足早に家へ向かった。
家の鍵を開け、着替えもそこそこに買ってきたものをテーブルに広げる。テレビを点けると年越しまであと2分と表示がされていた。
こたつの電源を入れ一息吐く。一人暮らしだが、これは買ってよかった買い物の一つだと思う。
カシュといういい音を立て、少し溢れた泡を啜ってから心の中で乾杯と呟いた。
喉を通る苦味と共に、一年の煩悩を嫌な記憶を全部流し込んだ。

トータルで見たら良い年だったんじゃないだろうか。一年を振り返って様々な記憶が巡る程良い思い出は無い。殆ど仕事詰めの一年だった。
それでも良い年だったと思える程には、楽しんだのだろう。

残り10秒のカウントダウンが始まる。テレビの中の演者達と共に会場が熱を帯びる。
3、2、1………クラッカーの音と共に画面が一気に煌めいた。

ただ日付が変わっただけなのに、いつも通り今日が昨日で明日が今日に変わっただけなのに。なんでこんなにも心が躍ってしまうのだろう。

今年も一年良い年になります様に……今年も晴れやかな気持ちで始められそうだ。そんな事を思いながらビールを啜った。

#良いお年を

1/1/2025, 7:00:03 AM