あの人はいつも花の香りがする。
あの人が現れると私は匂いで分かる。
花の香りを辿っていけばあの人がいる。
凛として美しいその立ち姿に、私はいつも一輪の花を想起する。気高く研ぎ澄まされた、それでいて柔らかくあたたかな色味を持つ花を。
あの人が振り返ればその艶やかな長い髪もふわりと円を描き、流動した空気に乗って届く花の香りの濃度がわずかに増す。
その姿を目の前にすれば、漂う香りは私の鼻腔を満たして脳まで届き、肺を通過して全身を巡り始める。
この優しい香りは一体どこから来ているのだろう。
その髪。身に着けているもの。首筋。
もし、この人自身の香りなのだとしたら。
そこまで考えて、私は切り揃えたばかりの前髪をそわそわと触る。
私を呼ぶ声が花の香りと共に届く。あなたは私のことをいつまでも幼い頃の愛称で呼ぶ。
私はもう小さな子どもじゃないのに。
それでもどうしても、その香りに惹き寄せられて、その柔らかい呼び声に顔が綻んで。
私はいま確かに
花の香りに恋をしている。
『花の香りと共に』
3/17/2025, 7:25:47 AM