日夜子

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『♪〜♪〜♪〜』
 でっかい音楽とともに『おうちに帰りましょう』のアナウンスが流れ始めると、オレの蹴り上げたサッカーボールはタイチにキャッチされた。
「えっ!ハンドじゃん!」
「ばーっか、もう終わりだろ」
「ちぇーっっ」
 なんだよ、シュート決まるとこだったのに。タイチのやつズルだ。
「もうチャイム鳴っちゃた」
「冬はあんま遊べねー」
「夕陽きれいじゃね?」
「ホントだー!でも暗くなる前に帰らないとお母さんに怒られる」
 口々に言いながらみんなで自転車置き場に移動する。冬は下校からチャイムまでの時間が短いから、いったん下校してからまた学校に遊びに来るやつもそもそも少ない。
「ハラ減った〜夕飯なんだろ」
「うち唐揚げだって。お父さんより俺のほうがいっぱい食べるんだぜ」
 へぇ〜唐揚げいいなぁ。熱々のできたて、最近食べてないかも。
 みんなヘルメットをして、自転車にまたがった。
「んじゃーな、コータ!」
「また明日なー!」
 今までサッカーをしていたクラスメイトたち五人は、オレを残して帰っていった。
 オレンジに染まる校庭に戻っても、ただっ広い校庭にオレはたったひとりきり。
「シュート!!」
 決めきれなかったシュートをカレイに決めたけど何もスッキリしない。テンテンと小さくドリブルをしながら学童の部屋へ戻った。
 
 学童のやつらもお迎えが来て、ひとりふたりと減っていく。今日はオレが一番最後だった。
「コータ、遅くなってごめんね」
 お母さんが汗をかきながら学童の入口に立っている。
「ありがとうございました」
「センセーさよならー!」
 学童を出ればもう外は真っ暗だった。夜になればだいぶ寒い。お母さんと並んでゆっくり歩く。
「遅くなっちゃったから、今夜お弁当なの。駅前のお弁当屋さんの唐揚げ弁当」
「やったぁ、唐揚げ食べたかったんだ」
「ずっと作ってなくてごめんね」
「あのお弁当屋さんのはお母さんのより美味しいからいいよ」
「言ったな!今度ちゃんと作るから楽しみにしててね」
「うん」
「今日もサッカーしてたの?」
「そう、シュート決めるとこでチャイム鳴っちゃってさ。いっつもいいとこでチャイム鳴るんだよ」
「チャイム鳴らないで〜、もう少し遊びたいよ〜ってお母さんも子供の頃思ったことあるなぁ。帰り道に綺麗な夕陽を見るとなんだか切ない気持ちになってね」
「やっぱり?チャイム鳴らなければもっとみんないてくれるのになぁ」
「……みんな帰っちゃうと寂しいね。帰り道もいつも暗いしね」
「暗い道、結構好きだよ」
「そうなの?なんで?」
「ええと……ひみつ!」
 オレはつないでいたお母さんの手をきゅっと握り直した。だって明るかったら、手をつないでるの誰かに見られるかもってつなげないじゃん。なんてもう四年生なのにそんなことを言うのは恥ずかしかったんだ。
 
 お母さんとつなぐ手をゆらゆら揺らす。暗く静かな夜の中、お月さまの形を眺めながらゆっくり家までの道を歩いた。




 #3 2023/11/5 『哀愁をそそる』
 
 

11/5/2023, 4:21:41 AM