雨の日

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同じ会社のマドンナ綾香さん
栗色のボブカットでほんわかした雰囲気に
社内の男どもはメロメロである
かく言う俺もその1人

「助かりますぅ〜。私、虫とかホント無理でぇ〜。
 綾香って怖がりだねって良く言われるんですけど      
ぉ〜」

昨夜ゴキブリが部屋に出て眠れぬ夜を過ごしたと、寝不足の為か目尻が赤らみ潤んだ瞳でそう言われ
ゴキブリ退治に名乗り出た男どもから、見事、退治役をゲットし、意気揚々と彼女のアパートに向かう

「仕方ないよ、女の子には多いよね。でも、大丈夫?自分で言うのもなんだけど、男を部屋に入れちゃって。もちろん、俺は下心なんてないけどね!」

嘘です。下心モリモリです。

「大丈夫ですよぉ〜。綾香1人じゃないしぃ〜」
「そうなの?同居の方がいるのかな?その人も虫がダメなんだ?」

彼氏と同棲なら、いくら彼氏が虫無理でも、男は連れ込まないだろうとそう聞くと

「どうなんだろぉ〜?同居って言うかぁ〜現れたり消えたり忙しそうなんですよねぇ〜」

ん?たまに転がり込むヒモ男か?

「性別は聞いたことないなぁ〜。
でも何となく女の子かなって、シルエット的にぃ〜」

ん?見たことあるんだよね?それなのに性別分からないとかある?

「なんかぁ〜綾香の住んでる部屋、瑕疵物件?とか言うのでぇ〜時々黒い影みたいのが出るんですよねぇ〜。別に出るだけで、何かするって訳でもないしぃ〜、家賃も安いから、いっかぁ〜ってぇ〜」
「へ、へぇ〜、、、そ、そうなんだぁ〜」

動揺のあまり、彼女の間延びした喋りが感染してしまう。
え、怖がりなんだよね?
虫無理で幽霊大丈夫とかあり?
普通、逆じゃね⁉︎

そんな動揺をよそに、彼女のアパートの部屋の前に着いてしまった。
心なしかドアの辺りから少し他の部屋より薄暗い気がする。

「ただいまぁ〜」

誰に対して言っているのか、彼女がそう答え玄関を通り抜けていく。
後ろから付いて入って行く俺は、玄関先に置いていた鏡に写る俺の横に張り付いた黒い人影と、耳元に感じる生臭い吐息のような風を感じていた。

会社を出る時に胸に抱いていた野望と下心が、急激に萎んでいくのが分かった。

帰りにコンビニで塩買って全身に浴びよう
そう決心し、ゴキブリを倒すべく部屋の奥へ進むのであった。

3/16/2024, 11:28:38 AM