Ichii

Open App

岐路

き‐ろ【岐路】 の解説
1 道が分かれる所。分かれ道。
2 将来が決まるような重大な場面。「人生の—に立つ」
3 本筋ではなく、わきにそれた道。

人生において、運命の分かれ目とは不意にやってくるものだと実感している。時には、それが岐路だとその時に気付けないものも多くあるのだろう。
頭でどれだけ考え、思い悩もうとも他人にとって行動に移し、言葉にしなければ何もなしていないのと同じだと悟ったのは実はそう昔のことでは無い。私は昔から頭で物事を考え込んでしまう癖があった。脳内では常にラジオのように音楽が流れ、誰の声とも知らない音で無秩序に空想が泳いでいる。そうしたことが私にとっての当たり前であったから、私はその騒音に後押しをされて、または思考する分だけ現実でも存在を主張し続けているとある種の勘違いをしていた。しかしある時不意に脳に響いていた空想たちが私にだけしか聞こえず、現実の私は欠片も体を動かずにいることに気付いてしまった。音が途切れた世界は無機質で、途端に傍にあったはずのものがなくなってしまった空虚さで肌寒さまでも感じたが、これが本来の現実で、そして、私は現実に生きていることを突きつけられたような心地だった。
人生は綱渡りのようなものだと思っている。今まではそれを漠然と肯定していたが、幻想という綱の下に広がる深淵を覆い隠すものが霧散してしまった今では、より強くそれが真実であると感じている。言葉ひとつ、行動ひとつで世界は変わらないが、それが綱を揺るがすような、いつどんな形で返ってくるのかはわからないというような疑いだけが確信をもっていた。
今日も私は現実という外の世界で私という役割を果たしている。もしかしたら、外の世界に向けた私という役割があることに気付いてしまったことが、私にとっての岐路だったのかもしれない。だからこそ、これから訪れるであろう岐路が、どうか私を揺るがすものではないことだけを祈り続けている。

6/8/2024, 4:44:06 PM