白糸馨月

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お題『これからも、ずっと』

 頬に冷たさを感じて目を覚ます。まばたきをして、寝ぼけた視界をクリアにしていく。今、俺はコンクリートの壁に囲まれた狭い部屋に閉じ込められているようだ。椅子に座ったまま、鎖を体に巻きつけられて体を動かすことができない。
 目の前に別れを告げたはずの元彼女が見下すような顔をして、ペットボトルを下に向けている。

「目ぇさめた?」

 元カノに声をかけられて、とっさに反論したい気持ちになる。
 ここはどこなんだ、なんで拘束する? 鎖をほどいてくれないか。言いたいことがあるのに口を開くと、彼女に舌をつかまれる。

「あぅ?」
「いろいろ言いたいことあるみたいだけど、喋らせないよ」
「あー」

 すぐさま元カノは、ポケットから猿ぐつわを取り出して俺の口につける。これで本当に喋れなくなった。

「ねぇ、私と別れて他の女のところに行こうとしたでしょ?」
「んん」

 俺は勢いよく首を振る。別れを告げたのは、目の前の女がヤバいからだ。顔の可愛さに落ちて付き合ったはいいけど、常軌を逸するほどの嫉妬深さがあってそれに耐えられなかったからだ。
 カフェで別れ話をしたら、気付いたらここにいた。頼んだコーヒーを飲んだ瞬間意識を失ったから、おそらく薬を盛られたんだろう。

「そっかぁ、じゃあ私と別れる理由なんてないよね」

 そうやって、話を聞く間もなく俺を抱きしめる。女の子特有の柔らかさが今は窒息しそうなほどに苦しい。
 彼女は俺の耳元で囁いた。

「これからも、貴方はずっと私と一緒にいるのよ」

4/8/2024, 11:52:05 PM