300字小説
お出迎え
舞い上がる泥を踏みしめ、暗い海底を歩いていく。
先導はチョウチンアンコウ。降ってくるマリンスノーが肩に積もるのを、二匹のメンダコが払ってくれる。
白いクジラの骨の側を抜け、タカアシガニの間を通り、見えてきたのは横たわる一隻の艦。
『なんだ。随分と皺くちゃの婆さんになってしまったな』
二十代の姿で、艦の前にたたずむ貴方がケラケラと笑う。
「十分、長生きしてから迎えに来い、と言ったのは貴方ではありませんか」
むくれて見せると冷たい手がそっと私の頬を撫でた。
『……苦労をかけたな』
「そうですよ。これからは彼岸で十分に労わって下さいな」
頬から貴方の手を外し、しっかりと握り締める。
七十年ぶりに私達は揃って歩き出した。
お題「雪」
1/7/2024, 11:24:18 AM