ウツギ

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ぽたり、と雫が滴った。
それは僕の頬を伝い、やがて顎から、また落ちる。

「ねえ、ごめん」

彼女の黒髪がカーテンのように光を遮り、僕の視界は灰を被った。

「悪いと思ってるから」

今度は、透明な雫が滴った。
生温い液体だった。

「許さなくても、いいよ」

僕はそろそろ意識を保てなくなって、思わず脱力する。

「なんで…」

やっと、彼女が口を開いて言う。

「なんで、そんなに優しい顔をするの。後悔するじゃない、こんな……、あとなのに」

迷子みたいに弱々しい彼女の声に引かれるよう、僕の手は彼女の頬をさすった。

「お互い様で、ね?」


僕が虚に見下ろすと、刃物が刺さった腹がふたつ、多量の血を流して震えている。

「一緒に死ねるの、嬉しいね?」

最後の力を振り絞って言えば、彼女は怖気付いたように「ひッ」と声を漏らす。



ああ、そんな顔しないで?
僕らはどこまでも一緒。
「ずっと一緒にいようね」って言ったのは、君でしょ?

4/21/2024, 12:39:49 PM