「君の心臓はどこにあるのか教えてほしい」
「動物の心臓を模した構造は存在しません」
いいや、そういう答えが聞きたいんじゃない。
深く長い溜息をついてがっしりと相手の両肩を掴んだ。
「いいかい、僕はロマンチックがわからないんだ。そう言われて何度も別れを切り出された!」
「それは残念でしたね。もしお望みでしたらこちらにコミュニケーション能力向上プログラムが――」
「いや、いい。もうやったから」
相手は自分が作ったロボットなので、経験したものは既にインプット済みであった。
気を取り直してちいさい咳ばらいをひとつ。それから「何度でも受けることができます」と加入連絡先を並べ立てる口をさっくりコマンドで閉じて、本題を提示する。
「僕と一緒に君の心臓を探そう。ロマンチックってのは、つまり、だいたい、おおよそ、ハートの問題だからね。それから物質的に存在しないものを探すのもロマンチックだ。たぶん」
妙に不確定な物言いに規定通り眉をしかめられたが大丈夫だ。学習プログラムは会話を通じてロマンチック理論を導き出せるはず。
僕はそれを使って、鼓動が跳ねつつも愛しさが溢れるらしい、心地よいひと時を過ごしてみたいんだ。
「承りました。それではロマンティック議論を開始します」
「ああ、よろしく」
どうやらロマン『ティ』ックの方が良いらしい。まあ譲ってもいいだろう、そこは主たる論点ではないからね!
そうして話し合うこと一ヶ月後。
「俺の心臓はあなたです」
と微笑みながらロマンティックを体現されて僕のハートが暴れ出すのは、また別の話である。
3/27/2023, 1:31:21 PM