世界の東の果ての寺院には竜の宝物殿があるという。
生涯かけても使い尽くせないほどの金銀財宝。
どんな願い事でも叶えてくれる不思議な珠。
飲めばたちまち不老不死になる竜涎酒。
竜の髭で編まれたサンダルは履けば空を駆けられる。
これをただの御伽話だと思う者もいれば、真実と信じて一攫千金の旅に出る者もいる。
ある日、一人の若者がついに東の果てまで辿りついた。古びた寺院には人の気配がない。彼は朽ちた門を幾つもくぐり、草木の枯れた中庭を抜け、廃墟の如き僧房の奥の奥に、ようやく大きな蔵を見つけた。
喜び勇んで扉を開く。
果たして中には一頭の竜がいた。蔵の中には他に何もなければ誰も居ない。問えば宝をもらえるものかと、おそるおそる竜に声をかける。
「竜よ、竜よ。私は宝を探してここまでやって来た」
「よく来たね。でもお前の望むものはここにはないよ」
打ちひしがれる若者に竜は優しく語り掛ける。
かつてこの蔵に積まれていたのは有難い経本。しかし戦で寺院が焼かれ、全て失われてしまった。私がここをねぐらと定めてからどれほどの年月が過ぎただろう。いつの間にやら御伽話の存在にされてしまった。
「しかしこうしてお前のように、夢物語の真実を探して稀に訪れる人間がいるから私は救われる」
長く独りで過ごした辛さは如何ほどかと若者がそっと伸ばした手を竜は軽く握り返してかすかに笑った。
「なかなか肉付きの良い手だ。久々の晩餐だよ」
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「宝物」
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所感:
この竜、単に出不精なんですよね。食事に出掛けるのも面倒っていう。でも待ってたらたまに出前が届くから。
11/22/2022, 5:56:39 AM