そんじゅ

Open App

あなたには嘘をつけない。

ばれたら叱られるとか、やましい気持ちに耐えきれなくなるとか、そんな理由じゃなくて。
ただあなたが全て見抜いてしまうから。

もう随分前なのだけど、私が小さな嘘をついた夜のことは今もはっきり覚えている。ちら、とあなたは鋭い眼差しで私の顔を見て、ふっと一瞬で表情を変えた。
それが怒りではなく憐れむように微かな笑みだったから一層恐ろしく、私は心底恥じ入り、そして素直に謝った。

「嘘は駄目だよ。分かってしまう」

言えないことなら初めから何も言わなければ良い、無理に聞き出すことはしないからね……と、よく分からない理屈で慰められ、あれが、二人の間の最初で最後の嘘になった。

************
「鋭い眼差し」

10/16/2022, 9:17:24 AM