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『ずっと隣で』(創作)

 「ママ、これ、よんで。」
幼い娘からのお願い事だ。断れるわけがない。
「ベッドで待っていて。」と、わたしは優しくありったけの笑顔で返した。まだパソコンの仕事が残っていたが、優先順位をつけ、まずはシンクの洗い物を片付ける。
パソコンでのデータ作成の期日は明日だが少しくらい大丈夫だろう。早く娘の元へ行きたくて、気もそぞろに家事を終わらせた。
 「おまたせ。さあ、絵本をかして。」と、またわたしは優しくありったけの笑顔で、ベッドにいる娘の隣に潜り込んだ。絵本は“オズの魔法使い”だ。娘のお気に入りの本だったが、娘は物語の途中しか知らない。なぜなら、いつも途中で寝てしまうからだった。
 昨日の続きから読み始める。娘は目を輝かせながら聴き入っている。この分なら、すぐに眠りにつき、仕事ができるな…と、踏んでいた。

 ところが、今夜に限って娘はなかなか眠らない。カカシとブリキとライオンとの冒険を楽しんでいる。
ずっと隣で絵本を読み聞かせながら、わたしは内心焦った。
でも、止めるわけにはいかない。娘のキラキラした瞳を見ていると、止めたくなかった。



「ママ、起きなくて大丈夫か?」
夫の声に、わたしは飛び起きた。なんということか、わたしは娘と一緒に寝てしまっていたのだ。ずっと隣で寝ていたことになる。時計の針は夜中の1時をさしていた。

まだ間に合う。今夜は眠れない夜になりそうだ。
夫がコーヒーを淹れながらニコニコしている。どうやら、仕事が終わるまで付き合ってくれるらしい。
「お疲れさま。仕事と育児、たまにはこんな夜もあるさ。」
ずっと隣で、妻でいたいと思った瞬間だった。

3/13/2024, 1:54:37 PM