私は、小学生の頃、色鉛筆ばかり手にしている子どもだった。
お絵描きがすきとか、中で遊ぶ方がすきとか、そういうことじゃなくて、そうするしかなかった。
「綺麗」
私の描いた絵を見て、嬉しそうに笑う人がいた。
男の子なのに色が白くて線が細くて、それから、とびきり優しかった。
「いつも褒めてくれるね」
「だって、本当に綺麗なんだもん」
きまって、僕はこの絵がすきだと伝えてくれた。
そんなことを言って笑う彼の方が私には綺麗に見えた。
しばらくして、急に、彼は私のところに来なくなった。
私は、それがどういう意味なのかも、次は私かもしれないということも、きちんと理解していた。
しかし、私は彼と同じ道を辿ることはなく、無事に家に帰ることができた。
そんな彼との思い出を、大学生になっても、ここに来る度に思い出す。
違う病室の笑顔が素敵な男の子。
「...りんちゃん?」
定期検査が終わり、正面入口に向かう私に声をかけてくる男の人。
「やっぱり、りんちゃんだ!」
そこには私のだいすきだった笑顔があった。
「...なんで?」
「定期検査、こっちの病院でも大丈夫って言われたから帰ってきた。」
私は、もう二度と会えないのだと思っていた。
会いたいと、ずっと思っていた。
「病気が急に悪化して、もっと大きい病院に移ったから、何も言えないままで、ごめんね。」
申し訳なさそうに顔を覗き込む彼を見て目頭が熱くなるのを感じた。
「..おかえり」
「ただいま」
その日の空にかかった虹は何よりも綺麗に見えた。
《カラフル》
5/2/2024, 2:36:40 AM