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「ルール違反だよ」


この発言は
私らしくなかった

相手もそう思ったようで目をまあるくして
こちらを見ている


「こういうこと、しないって決めたでしょう」

咄嗟に放った私の言葉は震えていた
訴えると相手の澄んだ目が瞬く

私が動揺しているように
相手もまた動揺しているのかもしれない

こういう時平静を取り持ち、
リードするのが私の性であったのに
なぜか今それが出来ず
言葉にならない感情が私の喉につかえ、
窒息しそうになり本能的に短く息を吸った

浅い呼吸を続ける私に反し
彼女はみるみる冷静を取り戻していくが、
相手から握りしめられた手は離れることは無い

「こういうこと」をしない

それは私と彼女が定期的に会うにあたって
取り決めたルールだったはず

思えば、ルールなんて私らしくもない
隠し事は暴かれるためにあり
ルールはくぐり抜けるためにあるのだ
今までそう横暴に生きてきた罰があたったのか
ルールなしでは会えない相手を
好きになってしまった

彼女を無条件に愛してしまったから
私は彼女と共に不得意なルールも愛し、
この取り決めを頑なに守り続けて数年

ささやかに守り続けていた清らかな泉は
底なし沼だったのか
白魚のように滑らかに泳ぎ、
恋焦がれ続けてきた手は
暖かく泥のように私の手に吸い付いて離れようとしなかった

4/25/2024, 8:25:22 AM