「あんた以外いないんだよ! 何回言えば伝わるんだよ!」
土砂降りの中で叫び続ける。髪も顔も服も全部ずぶ濡れになって雫が滴り落ちていく。
「頼むから……俺の言葉を聞いてくれよ……」
そして徐々に声のトーンが落ちていく。
「このシーンリテイク二回あったんすよ」
不貞腐れた声が隣から発せられた。
「……なんで?」
「雨音というか水の音が大き過ぎてオレの声が入ってなかったんですよぉ……。んでその次は水の勢いが強過ぎて」
画面に目を向けたまま問うと、声音は変わらずにため息と共に呟いた。こんなずぶ濡れになったのに大変だったんだなと思うと同時に何だか可笑しくなってしまう。
僕の笑った気配を感じ取ったのか、思い切り寄り掛かって体重を乗せてくる。
「ちょっと、何すんの」
「何笑ってんすかぁ……! オレがこんな名演技したっつうのに」
「演技見て笑ったわけじゃないよ」
ぐいぐいとのしかかって来るのを手で押し返しながら笑うと、じゃあ何だと口を尖らせる。
「こんなに熱烈に叫んだのに、それ以上に大きな音って凄いなと思って」
「絶対違うでしょ」
「いやいや、ほんとだよ! 叫ぶ声が掻き消されるくらいの音ってなかなか出せないよ。きっと演技を引き立てるために雨を強くして更に印象付けようとしたのかもね」
僕がそう口にすると、きょとんと目を丸くしてから自分の髪をかき回していた。
「だってきっとこのシーンは雨が激しいからこそ漣くんの感情の激しさが伝わるんだろうからね」
「……誰を思い浮かべて言ってたかわかってんですよね?」
ぼさぼさに乱れた髪を自分でまた撫で付けながら、相変わらず不貞腐れたような目で問いかけて来る。
だから僕は。
「わかってるに決まってるじゃない?」
視線を合わせて笑った。
#愛を叫ぶ
5/12/2023, 3:27:02 AM