星乃 砂

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刹那

オヤジが死んだ。
野鳥の写真を撮りに行って足を滑らせて崖から落ちたのだ。カメラを後生大事に抱えて、なんでだ!普通なら頭を守るだろうが。
「このカメラはおじいちゃんの形見なんだよ。」泣きながらおふくろが言った。そんな事を聞いたらなんだか手放せなくなった。
オヤジが最後に何を見たのか?フィルムを現像してみた。野鳥の写真が数枚と最後は何もない空の写真だ。周りが気にならないほど興奮して何を撮りたかったのか。

カメラには興味はない。まして野鳥など撮って何が面白いのか?図鑑を見れば済むことではないか。でも、不思議な事にハァインダーを覗くと、胸の高鳴りを抑えきれないほど興奮するのだ。ファインダーの中に見えない何かが写っている、そんな気になるのだ。
一年後オヤジと同じ場所に立った。見えないなにかを見るために。オヤジが見ていたであろう方向を向いてカメラを構えてじっと待つ。
"バサバサバサー"一羽の鳥が空へ飛び立った。慌ててシャッターを切る。その刹那ファインダー越しにオヤジの笑顔が写った。

           おわり

4/28/2024, 1:21:38 PM