ローダはセントラルに所属する〈描き手〉だ。それは世界各地にある、いわゆるダンジョンといったものの地図を描く仕事をしている。それに従事する者は〈描き手〉と呼ばれていた。
とある国の広大な森の奥に立つ廃墟に描き手として訪れたとき、彼女は災難に見舞われた。窮地に陥る彼女を助けたのが、今、護衛として雇っているウェルナーだった。
生真面目で仕事熱心なローダは、軽薄な彼に振り回されることも多く、ひと悶着もあったが、今ではそれなりの信頼関係を築いている。
「……あのさあ、ローダちゃん」
二人は今、西の大陸にある広大な地下遺跡にやってきていた。地下にあるダンジョンを訪れたことは何度もあるが、天井が見えないほど高く、果てが見えないほど広い遺跡を訪れるのは初めてだった。
「はい……」
呆れたように口を開くウェルナーに、ローダは俯いて応じた。
セントラルからの派遣命令で訪れるダンジョンは、描き手という仕事上、未知のものが大半で、ローダたち描き手が訪れた段階ではそのダンジョンに果てがあるのかないのか、定形のものなのか非定形のものなのかもわからない。何日も泊まり込んで地図を描くものの、日が経つにつれ地図の端から形が変わっていくというダンジョンもざらにある。
「前に自分で言ってたじゃん。身分を明かすとヒトは大体危害を加えてこないけど、魔物は全く関係なく危害を加えようとしてくるって」
そうね、とローダは頷いた。セントラルに加盟しているか否かを問わず、描き手は尊重される職能者で、その職務を妨げるものはその身分如何に係わらず、セントラルによって罰せられる。しかし、当然ながらそれを遵守するものは、あくまで人間の道理が通じるものに限る。
「だから、オレが護衛っていう形でいるんじゃんね?」
「……そうです」
「仕事熱心なのは知ってるけどさ、オレを放って先に行くのは止めてくんないかなあ」
「……ごめんなさい」
ローダはそう言いながら項垂れた。ダンジョンの壁の形が興味深くて、夢中になって描いているうちにウェルナーと逸れてしまっていたのだ。ついさっき、魔物に追われて、袋叩きにされそうになったところを、ようやく駆けつけた彼に助けてもらった。
「ローダちゃんはたった一人、何ものにも代えられないんだからさ」
ウェルナーはそう言いながら、しゅんと肩を落とす彼女の頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。
1/22/2025, 2:13:04 AM