名無し

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   空が泣く




「うわ、泣き顔キモ……」

誰が言ったかもわからない、そんな悪口。

ザワザワと少し騒がしい教室からそんな声が聞こえた気がした。



3時間目のことだった。

道徳のグループワークで私以外の2人の仲が悪かったらしく、口喧嘩が勃発し、後5分で課題提出なのに全く課題が終わっていなかった。

その時、私はその2人の喧嘩を止めながら、本来3人でやる課題を1人でやっていたと言う疲労もあったのか、流れ弾で飛んできた「このクソブス女がよ!!」って言う私のために特化した言葉が思ったより深く、心を抉ったらしい。

私、あなた達の喧嘩止めながら、ふざけてくるあなたのこともちゃんとフォローして先生に怒られない程度にしてあげて、課題も真面目にやって、喧嘩止める時もできるだけ優しい言葉をかけてあげたはずだよね?

そんな気持ちがお腹の奥底をぐるぐると回る感覚がして、座っていた椅子がヘドロで出来ているのかと思うくらいとても気持ち悪い感覚だったのをよく覚えている。

学校特有の寒いぐらいのクーラーが風向きを変える、春の春雷にも似た音、笑い声の混じったグループワーク中の教室から聞こえてくる喋り声、音楽室から聞こえてくる生徒達の歌声。

その全部が脳に直接響くみたいで不快で、痛くて、眩暈がするほどに輝いて聞こえた。

気持ち悪い、気持ち悪い、辛い、辛い、気持ち悪い。

よくわからない不快感が私のお腹を、胸の辺りをぐるぐる廻って、気がついた時には喉が痛く、熱くなってた。

この熱は知ってる。
泣くのを我慢する時に出る、不快な熱。

息をするのを止めて、いきなり吸い込んだ時みたいに喉が渇くこの熱は毎晩感じているから、止めるのも大丈夫。

すぐ止めれる。
いつも通り、お調子者のいじられキャラに戻れる。

そう思っていたのに、その熱と痛みはどんどん増すばかりで、喉に溜めきれなくなったそれは涙として目から溢れ出てきた。

幸い、私は髪が長い方だったから顔はギリギリ、本当にギリギリ隠せる。

でも声は抑えきれなくてゴホゴホって席で漏れ出る声を抑えてると、なんだか呼吸が早くなっていくような気がして咳を止めた。

するとヒューヒューってマラソンを走った後みたいな声を私の喉が発していた。

それには喧嘩していた2人も気づいて、やがて他クラスの先生もやってくる騒ぎになって、クラス中の視線が私に集まっていく。

ビニール袋を持たされて呼吸を整える、多分その時の私の顔は鼻水とか、涙とか、涎とかでグチャグチャだったんだろう。

「うわ、泣き顔キモ……」

だから、無意識でポロッと口から出ちゃった、みたいな声音をしたその言葉を言われても仕方ないんだ。

とにかく人を見たくなくて、この顔を人に見られたくなくて、窓の方を向いて必死に涙を抑えてた。

「雨雲キモ……」

怒りをぶつけるように、このどうしようもない不快感をどんよりと重く、誰にでも嫌われるような空に八つ当たりする。

息の苦しさは変わらないけど心の奥の方で何かが緩んだ気がして、なんだか虚しくてやるせなかった。

その時見た空は一生、忘れられないと思う。


9/17/2024, 2:58:17 AM