月夜
夜が紡ぐ言葉が好きだ。
透明で、粒が揃っていて綺麗な順序で並べられたそれをなぞるのが楽しみだった。それはまるで恋のようだった。
──もし、私が月だったら。
ありもしない「もしかしたら」を何度も考えた。或いは星でも良かった。夜と同じ時間を歩めれば透明な言葉に触れられたのに。
ある時、「置き手紙だよ」と添えられた言葉を見つけた。どこか怖がりなその文字はいつもより少し色を含んでいた。たまたま好きだったその色を見て、私宛ならいいなと思った。出来心で宛先を明記せずに返事を編んでみた。出来上がったそれはどうにもたどたどしく、目の荒い文字列は到底贈り物には相応しくない代物だった。
「お返事ありがとう」
もう1枚のメモを見つけた時、この文字を汚してやろうと思った。
幾度目かの置き手紙の横に、夜を汚す光の名を冠したそれを透明な軸を持つ筆記具とともに送り付けた。朝焼けと闇夜の合間に触れる僅かな時間を閉じ込めたような藍で、言葉を紡いで欲しかった。そうしてあわよくば、その色に私を思い出してほしかった。
──私は、あさひだ。
私が起きれば夜は眠りにつくし、夜が広がれば私は眠る。
──夜の書く文字が、誰かの闇を照らしたら素敵でしょう?
そんな言い訳とともに渡した月夜の青が、いつか曙に届けばいいなと思っている。
3/8/2026, 5:59:31 AM