夜の終わりは、いつも静かに始まる。
__と〈君〉は、薄明かりのホームに並んで座っていた。
電車はまだ来ない。
時刻表も、なぜかぼやけて読めなかった。
「ここにいるとさ、時間が止まってるみたいだね」
〈君〉がつぶやく。
__は答えなかった。
止まっているんじゃなくて、終わりに向かっていることを、どこかで知っていたから。
「ねえ、覚えてる?」
〈君〉が__の方を見る。
「最初に会った日のこと」
うなずこうとして、少しだけ迷う。
記憶はあるはずなのに、輪郭が曖昧で、触れた瞬間に崩れてしまいそうだったから。
「忘れてもいいよ」
〈君〉は小さく笑った。
「どうせ、夢なんだから」
その言葉が、胸にひどく刺さる。
夢だと認めた瞬間、全部が消えてしまいそうで、__は何も言えなくなる。
遠くで、電車の音がする。
でも姿は見えない。音だけが、確かに近づいてくる。
「そろそろだね」
〈君〉が立ち上がる。
その仕草が、やけに現実的で、余計に怖くなった。
「行かないで」
気づけば、声が出ていた。
〈君〉は少し驚いて、それから、困ったように笑う。
「 は最初から、ここにいないよ」
やさしい声だった。
でも、その優しさが、どうしようもなく残酷だった。
世界が、少しずつほどけていく。
ホームも、線路も、音さえも、淡く溶けていく。
「ねえ」
〈君〉が最後に__をまっすぐ見る。
その目に、何か言いたいことがあるのがわかる。
ずっと前から決めていた言葉みたいに。
「本当は——」
近くで電車が通る音がした。
__は〈君〉の言葉の続きがわからなかった。
だから聞こうとした。
…でも聞けなかった
寂しさと悲しみと少しの嬉しさが混じった微笑みをして、
こちらを見ていたから。
そこで、途切れる。
光が差し込んで、すべてを押し流していく。
__の意識は、引き上げられるように現実へ戻っていく。
――待って、今の続きを——
必死に手を伸ばす。
でももう、何も掴めない。
ただ、〈君〉が何かを言いかけていた気配だけが残って、
その余韻に触れたまま、__はゆっくりと目を覚ました。
3/20/2026, 1:51:11 PM