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長く伸びる廊下。
永遠に続くであろう苦痛に身悶える、身に覚えがする。
306号室のがら空きの部屋に、ひとりの痩身の男は腰かけた。
ここは、元は病室だった部屋で、鉄格子のはまった窓が厳しい。
なにをそこまで、妄執的にと思うが、警察病院の3階であって、人を逃がさないようにするのは、当たり前だろう。
現在は使われていないものと見え、消毒液の匂いはおろか、医者の話し声もしない。
ただ、相方が後ろからコツコツと靴音をさせて、近づいてくる音が聞こえた。
機嫌悪そうに語りかけたその男は、水道の蛇口をひねると、水を飲んだ。
こんな、水道管が腐っていそうな場所で……。と、怪訝な顔で返してやるが、ふてぶてしく息をつく。
ただ、男の有り様は、世間からは外れていたが、彼らの暮らす社会では、不適合者ではなかった。
暴力と策謀とが混雑する世界では、男の暴力癖は、クロールの途中で、息継ぎをするような、潔さに満ちていた。
相方は、血反吐を吐くようなこの、闇社会でのし上がってきた、成り上がりの男だったが、さすがにこの廃病院の調査にも、抜かりはないようであった。
ただ、愚痴は多かったな、と今になって思う。
愚策ではなかったが、愉快な話はひとつもなかった。

8/2/2023, 10:18:46 AM