時雨 天

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最初から決まってた




「こんにちは、いい天気だね」

若い子に声をかけられた。少し驚いたけど、小さく頷いた私。
生き生きとした感じが、懐かしく思ってしまった。

「ねぇ、大丈夫?元気がないみたいだけど……」

そう言われて、ドキリとする。元気がないのは確かだ。
日に日に、生きる力が薄れていくのがわかる。

「雨、降らないかな?私ね、雨が大好きなの。アナタも雨が好き?雨が降ったら元気が出るよね」

キラキラとした眼差しを向けられた。そのキラキラが眩しい。
私は目を細めながら、頷いた。若い子に圧倒されてしまう。
自分自身、昔はこうだったような気がしなくもない。
きっと、あの時喋った人もそう思っていたんだろうな。

「ねぇねぇ、あまり喋らないの?楽しくない?人生楽しまなきゃっ」

質問攻め。困った表情をしても、若い子には無意味だった。
別に喋りたくないわけでもないが、私にはもう残された時間が少ない。
一人になって、今まで生きたことを振り返りたいのに。
ふと、空を見上げた。青い空、白い雲、太陽の光が目に映る。
色々な世界だった、本当に。

「あのね、あのね、私ね。とっても綺麗な花を咲かせるんだ‼︎」

きゃっきゃっ笑ってそう言う若い子。
そうだ、そうだ。赤や青、黄や紫など色を注がれて、綺麗に着飾る。
そして、美しく咲き誇る。夢のような時間だった。
あっという間に時は過ぎ、気が付けば、もう終わりに近づいている。
それは、この世界に生まれた時点で、最初から決まっていたことだ。
全てのものに生命がある。今となっては、あの時喋った人の言葉が理解できた。

「……ねぇ、聞いてくれる?私の話」

「やっと、口を開いてくれたぁー、なになに?気になる」

「それはね――」

私の歌と引き換えに、新しい息吹を若い子へ。――蝉時雨が響いた。

8/7/2023, 1:15:38 PM