作家志望の高校生

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好きな人、中学の時にできた親友の名前を書いた小さな紙切れを手に、僕は砂浜を踏みしめている。
初めは、女子達がきゃいきゃいと鈴を転がすような声で騒いでいたのを、小耳に挟んだだけだった。
よくある、恋愛のおまじないだ。消しゴムに好きな人の名前を書くだとか、花弁を1枚ずつちぎったりだとか、そういう類いのもの。
『好きな人の名前と自分のイニシャルを書いた紙を海に浮かべて、浮いたら叶う、すぐに沈んだら叶わない』
内容を要約するとこうだった。
僕らの学校は海のほとりにある。だから、誰かがこんな話を作ったのだろう。おまじないの難易度としても大して高くなく、簡単にできる。それに、海という場で占いをするのは、年頃の女子からすれば特別感があって楽しいのだろう。
しかし、僕はもう高校2年生。華奢でも可愛くもない、どこにでもいる普通の男だ。こんな可愛らしいおまじないなんて使ったところで可愛くはなれないし、女の子のような柔らかな肌も、華奢な骨格も、低めの身長も手には入らない。
そっと、手に持った紙を水面に浮かべた。一瞬だけ浮いた紙に、僕は淡い期待を抱いてしまう。しかし、紙はすぐに波にさらわれて、青く澄んだ水の底に沈んでいってしまった。
分かっていた、叶わない恋だと。同性だとか、親友だとか、それ以前の問題なのだ。
彼には、彼女がいるのだから。僕よりずっと可愛くて、肌もお菓子のような甘い匂いのふわふわした感触で、髪はさらさらの黒髪ストレート。絵に描いたような可愛い女の子で、僕なんか到底勝てっこない。
深い深い紺色の水底に呑まれていった紙はもうとうの昔に見えなくなっている。いっそこの恋心も一緒に連れて行ってくれればよかったのに、僕の心は相変わらず、彼を求めているままだった。
海の底に沈んだ想いは、沈みきってなお、その熱を冷ませないでいる。それでも離れたくなくて、僕は親友を取り繕って、いつまでも彼の横に立つのだ。

テーマ:海の底

1/21/2026, 7:18:03 AM