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『鏡の中の自分』

ある朝、鏡に映る自分が幼い子供の頃の姿になっていた。

と言っても、自分の本体が若返ったわけではない。鏡越しでなく、直接見る手足や身体は大人のものだ。

鏡に映る自分は、随分と貧相な風貌だった。
生気がなくて痩せこけて、いかにも不健康そうな。

子供を飢えさせているような気になったので、それからは食事と睡眠をきちんと摂るようにした。
しばらくすると、子供は頬がふっくらし血色がよくなった。

すると今度は身なりが気になるようになった。

最初の貧相という印象は、どうやら顔色だけが原因ではなかったらしい。
着古したよれよれの服は、健康そうな顔つきとは似合わない物だ。

服装を改め、華美ではないが清潔感のあるこざっぱりとしたものを身に着けるようにした。
化粧や宝飾品の類は、子供に似合わないので除外した。

今では毎日が面白い。
昔流行ったタマゴを育てるゲームのように、鏡の中の自分を育てるのが楽しいのだ。

そんな時、職場の同僚に声をかけられた。
小さくそっと「君も鏡の中の自分を育ててるの?」と。

もしも彼とふたり並んで鏡を覗いたら、そこにはどんな子供がいるのだろう。
何かを期待している様子の彼に、にっこりと笑って頷いた。

11/4/2024, 3:50:55 AM