椋 muku

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冷えすぎた外気を気にせず肺にたっぷりと送り込む早朝。涙が出るほど鼻がじんわりと痛んだ。

「うわー。雪積もりすぎてんなー。これじゃあランニングもできないか」

冬休みに入って年内の出校日も残っていない。毎朝、誰にも気付かれない時間帯にこっそりとランニングに行く習慣も休み期間なら時間を気にせずにできそうだ。なんて思っていた自分が甘かったらしい。どうするか悩んでいるとバタンと玄関の扉が開く音がした。

「んー…やっぱりお前か。俺も一緒に行く…待って」

「おい、パジャマのままで出てくるな、風邪ひくから。ほら、ちゃんと準備してからにして」

朝が苦手なコイツが頑張ってまで起きてくるのは相当珍しい。いつもは絶対起きていない時間帯なのに。
準備が整うと私たちは外へ出た。ランニングの予定がコイツが寝起きだったということもあり散歩になってしまった。

「なんで今日早起きなんかしたんだよ。まだ寝てても良かったんだよ?俺あとで起こすし」

「んー…だってお前毎朝ランニングしてて、俺も行きたかったけどなかなか起きれなくて…」

寝癖を揺らしながら悔しそうに話す声が寝起きで呂律が回っていない様子だった。

「だからってこんな朝早くじゃなくても良いんだよ?朝、弱いことなんてもうずっと前から知ってるし」

「…どうしてもお前と一緒に行きたかったんだよ!1人置いていかれたくなかったんだよ!もしかして…俺がいると邪魔なのか…?」

「そっか。俺と一緒がいいのね、嬉しい。俺は置いていかないよこんな可愛いやつ。」

慣れない早起きなんてするからコイツのテンションもメンタルもいつもより弱い。すぐに不機嫌になるし俺から離れることを酷く嫌う。それに、もうこんな涙目になって…こういう時は欲しい言葉を言ってあげると落ち着く、、、らしい。

「ほら、泣かないで。俺は君が拒んでも絶対に離れないから大丈夫だよ。だから泣かないで、ね?」

指で目尻を拭ったコイツの涙は温かくてすごく綺麗に見えた。

「…ん。手、繋いで。」

マイペースで自分勝手なコイツに構ってやれるのはきっと私だけなんだろうな。年明けも近づいて受験も近づいて。志望校が違うから余計不安になってんのな、コイツも。

「俺は…俺も…お前がいくら嫌だとか嫌いだとか傷つく言葉を言ったとしてもお前のこと離さねーから」

「何告白みたいなこと言ってんだよ。朝に弱いお坊ちゃまはまず早起きという習慣を身に付けてください」

「毎回お坊ちゃま扱いしやがって…もう今日くらいそんな意地悪…言うなよ」

っ!?やっぱり朝のコイツはいつもと様子が違って調子が狂う。乱したいほどに。私の隣にいること自体奇跡なんじゃないのかなってくらいなコイツが私にはすごく輝いて見えた。そんなコイツと年末まで一緒に過ごすことになるなんて思ってもみてなかったな。
薄暗く青白い早朝という名の夜。話さずとも分かり合える私たちの冬休みがようやく始まったように思えた、そんな朝だった。

題材「冬休み」

12/28/2024, 1:59:14 PM