【君の目を見つめると】
っしゃーやったやったマジでやったや〜っとデートでキスから次の段階に進める〜!
という内心のガッツポーズをキメかましながら俺は胸をときめかせていた。そりゃ下心がないとは言わねえよ、見たい! シたい! 抱きしめたい! そこに嘘はつけない! が、一方でそれよりもどちゃくそに高まってるところがある。というのも、ぶっちゃけ彼女は十人並、容姿そこそこ、痩せてるかっていうと標準くらい、乳も尻もそこそこ。お分かりいただけるだろうか、説明が難しいレベルの「普通」なのだ。いや、それでもデートと思うとめちゃくちゃオシャレしてきてくれる。可愛い。夏場です。ハーフパンツの足元が眩しい。俺のためかどうかは別としてだよ、脱毛サロン行ったんかなみたいなツルッツルの太腿、ちょっと黒ずんじゃった膝、むっちりした脹脛。彼女の「デートに来ました」の姿がそれだと思ったら愛しいじゃんよ。
なんかねえ、聞くだに可愛いんですよ。中学生くらいまでぽちゃぽちゃしてたんだ。写真見せてくれた、恥ずかしがりながら。でも俺はもうなんか「あ〜〜〜〜彼女の存在を一ミリグラムでも多く感じられた世界があったのか羨ましい〜〜〜〜」ですよ。こんなの初めて。処女か。そうかも。運命みたいなクッサい言葉を信じたことなんかない。でも今まさに「この子しかいないんじゃね?」と思ってる。俺の頭じゃ軽い言葉しか出てこないのが悔しい。勉強なんか大っ嫌いなのに、あの子のためなら難しい言葉もたくさん勉強してもいいと思う。いや理工学部だしね、電子系の話ならできんの。
なんかさー今まで付き合ってきた女の子が悪かったとかじゃないんだよね、綺麗に光る発光ダイオード、いくつもキラキラ眩しく光ったり、珍しい色の再現ができたり、スケルトンケースに収まったスマートな回路だったり。めちゃくちゃ見た目がいい。でもフタ開けてみたら燃費が悪かったり消耗早かったり、思ったより複雑だったり細かすぎて理解できなかったり、組み込みにくかったりしちゃうとさ、ちょっとこっちが及び腰になっちゃうよね。まるで金属みたいに、あっちの熱が上がれば上がるほど俺の抵抗が上がっちゃう! こんなのどうしてって思うじゃん、もっと乗っちゃえばいいのにそんな気にもならなくてさ。まあそれでね、飲み会であんま喋んなくて、スマホばっかりみてるちょっとあの……言い方あれなんだけど、無理したオシャレをしてきた子がいてさ、チョロそう、いやもしくはめちゃくちゃ身持ち固いかな、ワンナイトいけっかなくらいの気持ちで喋ったんだよね。すっごい、聞いてくれる。発光ダイオードが「そんなことよりさー」「え、わかんなーい」と言ってくる話をさ〜、「それってどういう意味?」「私知らないことなんだけど、こういうことかな?」って真面目な顔してうんうんって。ママかな? いや最初はマジでそう思った。けどね〜連絡先交換して、つまんないことだろうなと思いながらですよ、ゲームとかSNSの話を振るわけですよ、俺は。なんでも「やったことないけど、楽しそうだね」「そういう話があるんだね」ってまず肯定してくれるんだよね。既読無視とかスタンプ終了じゃないの。
てなるとさ、そっちの話も聞きたいじゃん。何してんのって。英文学部の子でさ〜、俺には全然わかんないけど古い英語の詩の専攻なんだって。でも英語の成績いいらしくて、就職もそっち系かな〜って。真面目だ、すごい真面目。家でもドラマとか英語で見られるくらい。トーイックとかやったのって言ったら合格取ってた。俺と全然世界が違う。でもゲーム好きなんだよね、俺と違うやつ。わかんねーって返事しようとして、あ、違うなって思った。だからちょっと調べて、俺やったことないゲームだね、どういうとこ楽しいの、って聞いた。そうしたらさー過去一長い返事きた。だからマジで好きなんだなーって。そういうの、俺に見せてくれるんだなーって! なんか嬉しくない?
そんで、お付き合いを申し込んでね、色々デートもした。俺女の子側から「こういうとこ行きたい」って言われたの初めて。彼女は美術館が好きで、俺は水族館が好き。水族館の館内のいろんな電気管理って考えてると面白いし、魚の種類を少し覚えたら、あーここは温水なんだ、とか、こっちは冷たいんだ、どういう処理なんだろーって思うようになった。その話をしても「見てるところ面白い」って笑ってくれるような女の子。
それを、運命と、思うじゃん。でも下心はあるじゃん! めちゃくちゃその気がなさそうなのを頑張って頑張って口説き落として、本日やっと、初めてのラブホ!
シャワーを浴びて出てきた彼女が、ホテルの備品のパジャマに身を包みながら、タオルで顔を隠している。
「え〜……どしたの、やっぱやんなっちゃた?」
それならそれで、だっこして寝よう。全然いい。俺もヤりたくない時ある。嘘ない。ごめん。
「……カラコンの替え、忘れてきちゃったの」
ちいちゃな声でそう呟いて、俯いてしまう。もしかしてコンプレックスってやつなんだろうか。そういえば付き合った子たちはみんなカラコンしてたわ。流行り?
「いーよ、メガネ持ってきてんじゃないの?」
「私、目ちっちゃいんだもん……」
気にしなくていいのに。いや、本当言うとちょっと気になる。風呂上がりの彼女の髪の毛ってすとんとしてる。いつもウェーブしてたからパーマあててるんだと思ってた。毎回巻いてるんだ、この子! 俺のためかどうかは別として、その努力が可愛すぎる。つけまつげ苦手って言ってた。マスカラでぱっちりしてた目も、今はノーメイクだ、ないってこと。せめてカラコンだけはって思ったのかも。えー何マジで可愛すぎか?
「……もしさーあ?」
俺はベッドから起き上がって彼女を抱きしめていた。
「俺と一緒に暮らすってなったら、絶対見るもんじゃん。いいじゃん、見せてよ」
暮らすって何うわーと呟いているが、俺も同じ思いです。暮らすってなんだ。いやでも、そうしたい。いいと思う。すぐじゃないかもしんないけど。
「そんなことで嫌いになんないよ」
ちょっと強引にほっぺを挟んで上向かせちゃお。思いの外抵抗はない。
本当に、ちょっといつもより目そのものが小さい気がする。カラコンのない瞳もちっちゃい。ちっちゃいったって1mmとかでしょ、誤差!
「なんかさ〜、こー、見てるとさ」
吸い込まれそうなくらい、深い黒の瞳。こっちを見てられなくてふいっとそれちゃうシャイな瞳。
「つやっつやで、舐めたくなっちゃうね」
「……もう」
またタオルで隠されちゃう前に、おでこに一つキスをした。
4/7/2026, 1:35:58 AM