【これまでずっと】
「ずっと、言わなかったけど」
風が彼女の髪を揺らす。彼女はそれを手で押さえて、
「あなたのこと、好きじゃなかった」
「そうか」
彼女の態度には気付いていた。なんでわざわざ今、そんな話をするのかも。
「お別れだね」
「そうだね」
二人で肩を並べて歩く道、目の前は分かれ道で、自分は右、彼女は左に行く。もう、一緒に歩くことも、話すこともないだろう。
「さよなら、気をつけて」
いつもの、最後の挨拶。
「さよなら、そっちこそ」
だからこっちも同じ返しで答える。そして、背を向けて歩き出す。
(もう二度と会えないけれど)
(だから、相手を傷つけないように。悲しませないように)
(明日から、自分は)
どこへ行くのか思い出して、ため息をつく。
「ほんとはね!」
後ろから声がして振り返ると、彼女が涙を流しながら、
「ずっとずっと、これまでずっと、これからもずっと、」
彼女のセリフが止まる。自分が抱き寄せたからだ。走って彼女の前まで行ったから、息が切れている。でも構わず抱き締めて、一緒に泣いた。彼女も、泣いてくれた。
(明日の病院、行きたくないな)
泣きながら、思っていた。
7/12/2024, 1:56:11 PM