Open App

胸が高鳴る瞬間とはどのような時だろう。
それは人によって異なる。
好きなことをする時、好きな人と会う時、
最後にこの心臓が大きく脈打ってから
どれだけ時間が経ったろう。

毎日同じ日々、瞳に光を宿さず、画面を見つめる。
ふと前を向いても誰かと目が合うことは少ない。
電車に揺られている皆、下を向いているから。

コードすらなくなったイヤホンから流れる
「上を向いて歩こう」この歌詞がやけに刺さる。
今じゃ上を見たってビルに隠れ空が狭い。
東京は息苦しい、自分を見失う。
イヤホンからは違う曲が流れている。
「東京で見る夢はシャボン玉みたい」これもまた刺さる
最近の曲は早口だが何故かこれは聞き取れた。

学生時代は良かった。青春だった。
あの箱の中では鼓動の音が聞こえてくるようだった。
薄い体に纏った白いシャツの中では
心臓が大きく脈打っていたのを感じる。
毎日胸の高鳴りの連続だった。

酒が飲める、車でどこへだって往ける、金がある。
門限などない、親の許可がいらない、正に自由だ。
しかし、子供の頃より縛られている感覚がある。
仕事へ行く足が重い。まるで血が巡っていないようだ。

その日は仕事を休んだ。旧友に会いに行こう。
久々に地元に帰ってきた気がする。
昔よく遊んだ公園には噴水とスタバがあった。
もうここではボールは蹴れない、
ゴールにしていた木も切り落とされている。
「変わっちゃったな」頭ではそう思っていた、
しかし口ではこう呟いていた、「変わってないな」

私の頭の中には10何年の青い春の記憶が流れた。
その後小さな居酒屋に足を運び思い出話に花を咲かせた
私ははっきり感じたその瞬間だけは胸が高鳴っていた。
アルコールのせいか鼓動か、私の口は、頬は、体には、
血が巡っていた。
明日上司の説教が待っていることも忘れて。
スマホを見るとすっかり終電の時間を過ぎていた。
仕方なくタクシーで帰宅した。今の家が地元から
離れていることもあって料金はなかなかのものだった。
しかし今の私は気づかない。後悔は明日すればいい。
さぁ明日も早い、さっさと寝よう、
一人きりの部屋の隅にあるベットに横たわり電気を消す

大人も案外悪くない。

3/19/2026, 2:55:07 PM