昨日は久し振りによく晴れた日で、今のところ降り出しそうな気配はない。おかげでドアから蹴り出されても、冷たい雨に打たれることはなかった。土のぬかるみも気持ちよく乾いて、僕が倒れた場所は派手に砂埃が舞い上がった。大げさな音を立てて閉まる扉を見届けてから、僕は言い付け通りに仕事をする。だけど今日はとにかく虫の居所が悪いらしくて、いつもよりずっと早くにまた怒鳴りに来るのが見えた。その手に鍵束が見えた。塔だ。見た瞬間に分かった。だけど逃げるなんて選択肢もない。僕は何度目かの暗い道を黙って歩くしかなかった。
森の中にある塔には扉に数えるのが面倒なほどの鍵がつけられている。開くと、軋む音と湿ったにおい。頭上には蜘蛛の巣。一人、ただただ長い階段を登っていく。
この塔に入れられたということは、またしばらく食事も水もない日々だ。雨が降れば多少喉は潤せる。階段の果てまで辿り着き、僕は狭い部屋にたったひとつある、歪んだ窓枠を押し開けた。気休めに換気でもしようと思って。そこでふと、違和感を覚えた。なんだろう。もう一度窓の向こうを見る。目を凝らすと階段のような雲が窓からどこかへ伸びている。これは乗れるのだろうか。半信半疑で手を伸ばすと、確かに触れた。どこに続いているだろう。見るとゆるやかに上へ上へと伸びている。きっと落ちたらひとたまりもない。だけど命なんて最初からあってないようなものだ。僕の命は、僕のものでなく、もうすっかりただの道具だ。
であれば何をためらうだろう。ずっと夢見てた自由が、束の間でも味わえるなら。
窓枠に足をかけて、向こう側へ飛び乗る。まだ落ちていない。確かに雲の上。どこでもいい。どうせこんな日々だ。もう下なんてないんだから。
真っ青な視界をただまっすぐに、雲の道を辿ってどこまでも行こう。
〉どこまでも続く青い空
10/23/2022, 11:27:43 AM