大皿にからあげがひとつ。
これが「日本人」だ。
その横の皿にはキャベツが一口分。
反対の皿には刺身がひと切れ。
「次何飲まれます?」
はす向かいに座る同期が先輩に明るい声で気を利かせている。
そう、何を隠そう私は「気が利かない奴」である。
でも本当の心を言えば、私は気の利かない人間ではない。ただスピードが人より遅いのだけなのだ。
そういう心がそもそもないのなら私が冷えていくからあげを放って置くわけがないのだ。
誰かが手を付けていないかもしれない、実は狙ってる人がいるのかもしれない、気が利かない私が食べるのは忍びない。
しっかり考えているのだ。許してほしい。そう心の中でつぶやいた。
目線のやり場に困らないよう、ジョッキに唇を付けるだけを繰り返していると、先輩はお手洗いに席を立った。
先輩が奥の扉に消えると同期2人からこちらへ冷たい視線が送られる。
「お前ももう少し気を使って行動しろよ」
返す言葉もない。私がどんなに考えていようと行動として見えていなければ考えていないと同じなのである。わかってはいる。
だが、同期らから送られるあまりに冷たい軽蔑の視線に怒りを募らせてもいいではないか。私をそんなに否定するな。
私はこの怒りを爆発させるべく、ついに口を開いた。
「ごめん…そういうの苦手で…」
心の中の私は大声で泣いた。もうボロボロだ。帰りたい。これ以上長引いたら私がもたない。
すると先輩がお手洗いから帰ってきた。
同期の方を見るやいなや、二本指を立てた手を口元に当てるジェスチャーをして合図を送った。
同期らはそそくさと席を立ち店の外へと消えていった。
大きなテーブルと周りの喧騒が私の孤独を強調するようだった。
暗闇へ落ちていく心を引き止めるべく、私はキャベツと刺身を口に放り込み、最後にからあげでフタをした。
8/8/2024, 10:40:10 PM