案山子のあぶく

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◎不完全な僕

新月の夜。
青年の体はカタチを失いそうになっていた。

体が安定しない。
細部は特に、意識しないと不定形に戻ってしまいそうだ。

その腹部に深々と刺さるナイフが青年の意識を削り取っていく。

人として生きたかった。

そう願ったら、気まぐれな神がカタチを与えてくれた。

楽しかった。

皆とつるんで、助けあって、笑いあって、泣いて……

この子を庇って死ぬことに後悔なんて無い。

こんな僕を受け入れてくれた人に恩返しを出来て嬉しいくらいだ。

だけれど、
この体のうちは”人”でいたいから、
不格好でも不完全でも、体を必死に保つ。

人として認めてくれて、
一緒に生きてくれてありがとう。

つぅと青い液体が口から垂れる。
それは青く地面を染め、青年の正面に立つ連続殺人犯の足元に拡がった。

「スラムの子供ばかり狙う外道が。
この子を狙ったのが、お前の運の尽きだ」

背後に庇った少女から見えない角度で、
口元を人外らしく歪めて青年は笑った。

「道連れにしてやる……!」
「───!!!」

殺人鬼の絶叫が闇に飲み込まれる。

その日以降、
スラムの殺人の噂は
ぱったり聞こえなくなったという───

9/1/2024, 4:05:59 AM