◎不完全な僕
#29
新月の夜。
青年の体はカタチを失いそうになっていた。
体が安定しない。
細部は特に、意識しないと不定形に戻ってしまいそうだ。
その腹部に深々と刺さるナイフが青年の意識を削り取っていく。
人として生きたかった。
そう願ったら、気まぐれな神がカタチを与えてくれた。
楽しかった。
皆とつるんで、助けあって、笑いあって、泣いて……
この子を庇って死ぬことに後悔なんて無い。
こんな僕を受け入れてくれた人に恩返しを出来て嬉しいくらいだ。
だけれど、
この体のうちは”人”でいたいから、
不格好でも不完全でも、体を必死に保つ。
人として認めてくれて、
一緒に生きてくれてありがとう。
つぅと青い液体が口から垂れる。
それは地面を染め、青年の正面に立つ連続殺人犯の足元に拡がった。
「赤、赤か……ははっ」
背後に庇った少女から見えない角度で、
口元を人外らしく歪めて青年は笑った。
「いつか、また……ここに──」
青年がその形を失っていくなかで、
頬を伝った液体と腹部から流れるその血が、彼が人間であったことの僅かな名残を示していた。
9/1/2024, 4:05:59 AM