秋茜

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“真昼の夢”

「いちばん、スキだよ」

 何を考えているんだかイマイチわからない──ポーカーフェイスだからではない、むしろ彼の喜怒哀楽は激しすぎるくらいで、中でも“哀”が強すぎるのだ――少年に、満面の笑みでそんなことを言われて、自らの頬をつねった。

 オドオドしていることが多い彼は、言葉が雑な自分に対しては怯えている印象が強い。もちろん、そればかりではないけれど。でも、彼にはオレよりも話しやすそうな友人がいて、オレのことは――バッテリーだから、好意を抱いているように思っていた。期間限定の特別枠、みたいなものだ。気は弱いものの良い奴だから、本人はそんな嫌な捉え方はしていないだろうが。

 “彼にとっての自分”の認識はそんなものだったので、冒頭のセリフはあまりに想定外だった。きっと、いつの間にか寝てしまって、夢でも見ているのだろう、 と確認してしまう程度には。

 ――だってもう、部活は引退したのだから、魔法は解けた、はずなのに。

 つねった頬は普通に痛くて、顔をしかめる。おかしいな、と思う。それ以上に不思議そうな顔をした目の前の少年に名前を呼ばれる。続けておっかなびっくりといった様子でかけられた心配の言葉に本人だと確信する。

 どうやら、真昼の夢、ではないらしい。
 
 

7/17/2025, 12:11:01 PM