あちこちの木々から聞こえてくるセミ達の合唱。
今日は約束があり、公園前で待っていた。
ミーン!ミンミーン!
セミの鳴き声を聞いていると、嫌な記憶がよみがえる。
幼稚園児の頃、地面に落ちて動かなくなったセミに近づいたら、息を吹き返してバタバタ暴れ始めて、びっくりして走って逃げた記憶。
中学生の頃、突然セミが飛んできて肩に止まり、ミーン!ミーン!と鳴き始めて一緒に叫んだ記憶。
他の夏の記憶は……暑いから冷たい物を食べたり飲んだりしまくって腹を壊したり……。
一人で夏祭りへ行き、カップルだらけの中を歩いて寂しい思いをしたり……。
今思えば、ろくな記憶がないな。
だけど、これからは。
「ごめ~ん!お待たせ!待った?」
彼女が早足で俺の元へやって来た。
最近付き合い始めた、人生初の彼女だ。
「いや、俺も今来たところだから大丈夫。暑いし、涼しい所へ行こうか」
「うんっ」
今までの夏は、ろくな記憶がなかったけど、これからは彼女と過ごした夏の記憶が上書きされていくだろう。
いや、夏だけじゃなくて、秋も、冬も、春もだ。
俺は彼女と手を繋ぎ、幸せを噛み締めながら一緒に歩いた。
8/12/2025, 11:04:12 PM