海の名無し

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はちゃめちゃに元気な君。
毎回君に手を引っ張られて、いろんな所に遊びに行った。
夕暮れが来るまでずっと遊んだ。
君と居ると、僕まで元気になれたような気がした。
ある日の事だった。
さんざんいろんな所に行って、遊び疲れた夕暮れの時の事だった。
「あたし、もうここに居られなくなるんだって。」
いつもよりも低いトーンで僕に告げた。
あまりにもびっくりしすぎて、声も出なかった。
いろんな思い出が頭を巡った。
はじめて君と会ったこと。
学校をサボって遊びに行ったこと。
授業中に君と書いた小さな手紙のこと。
たくさんあった。
「嫌だなぁ」
自分勝手な言葉だ。でも、伝えておきたかった。
「えへへ…嬉しいよ」
君は夕暮れに照らされていた。
黄昏…とでも言うのだろうか。
思わず君に見惚れてしまった。
憂いを帯びた表情に飲み込まれそうになった。
「いつまでもこのままがいいのに」
「…だといいけど」
他愛のない会話は夕暮れに溶けていった。

お題:たそがれ

10/2/2023, 9:57:24 AM