ぐわり。
不安げに君の瞳が左右に揺れる。
呼吸は乱れ、胸が喘いでいる。
嗚咽が混じった息は聞くに耐えないもの。
「いや……、あ……いや、」
開いて閉じない口の端から、たらりと線が描かれる。
ぶるぶると手を震わせて治まらない様子の君の瞳が揺れながらも私を捉えた。
綺麗な円を縁った瞳孔がその大きさを何度か変える。
「たすっ、助けて、わたしは、ちがう、しかたなく……」
君の声はその瞳と同様に絶え間なく震えていた。
何かを取るように伸ばされた彼女の手はまるで真紅のゴム手袋を着けているかのように塗れていた。
視線を横にずらすと、君の体躯数倍はある肉塊が、同じ色をして転がっていた。
「なんで……なんで、そんな、かお、するの……。」
君は信じられない、とでも言いたいかのようにぐしゃりと顔を歪ませた。
そんなに酷い表情をしていただろうか。
「じゃあ、じゃあ! どうすればいいのよ、どうすればよかったの!?」
手も拭かずに私の胸倉を掴んだ君は力一杯に前後に揺すった。
遠慮もなく、頭を揺すられて、徐々に吐き気が競り上がってくる。
そして再び顔を覆って嗚咽を漏らし始めた君に、私は力なく触れることしかできなかった。
「……ごめん、ごめんなさい。」
11/22/2023, 8:56:36 AM