久しぶりの非番だというのに午前から呼び出されてしまった恋人を待つ間、コーヒーを一杯注ぐことにした。
常温の水をメーカーに入れて少し待つと、コトコトという音とともに湯気が上り、独特の苦味が柔らかく鼻腔を擽る。コーヒーが出来上がるまでのこの瞬間が一番好きなのだ、といつの日か彼が言っていたのを思い出す。
「遅いなあ……」
彼は、ちょっとした変化に気付いては嫌味なくサラリと褒めるようなひとで、たまにこちらを揶揄っては言い返されるたびに面白そうに笑う顔がなによりも素敵だった。
舌も、上背も、感性も、何においてもがわたしよりうんと大人だから、いつか私を置いて遠いどこかへ行ってしまうんじゃないかと怖かった。
……だけどもう、きっと大丈夫。これからはずっと傍にいるって約束したもの。
「はやく帰ってこないかな」
その時、─── ジリリン!!と受話器が揺れる。
天井から吊り下げられた真白な光が、約束の証にギラリと反射した。
▶︎コーヒーが冷めないうちに #13
9/26/2025, 3:19:44 PM