濤無

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あの日、君がオレに話しかけてくれた日。

今思えば、あれがオレの人生の
スタート地点だったのかもしれない。

人生、なんて格好つけて言ってはみるけど、
そもそも人間じゃないオレは、
「人生」という箱庭にすら存在しない
ただの異物でしかなかった。

そんなオレを、君が引き入れてくれたんだ。

それからのオレは、
少しは人間らしくなれただろうか。

何回も何十回も、
同じ歴史を繰り返して。
変えようとしても、できなくて。

そのたびに巻き戻しして、
また初めてのように君に出会うけど、

オレは、人間の心を持てているだろうか。


長い長い時間の中で、
人ってものを勉強する余裕はあった。

でも、暑い夏の日に食べるアイスクリームの味や、
海岸に足を踏み入れたときの砂の感触、
深い森の中での静けさは
自ら経験しないとわからない。


あらゆるものがありふれていて、でも儚い。

オレを残してみんな消えていってしまうけど、

オレは、それを本当に哀しいと思えているのか?

文字で学んで理解することと、
感じて理解することは、大きく異なる。


オレの心は、人間になれているのか。


オレが開放される日は、いつになるのだろう。



10/30/2023, 7:05:26 PM