「祭りが明けて」
今日は一日できるだけ声を出さないようにしようと思いながら、バスから降りる。
幸いなことに、家を出てからここまで会話をする必要はなかった。
学校前のバス停から校舎へ続く並木道は、色付いてきている。
ぼんやりと眺めがら歩いていると、ふいに名を呼ばれ、肩を叩かれた。
文化祭の準備期間、なんだかんだで話す機会が増えたクラスメイトだ。
ぺこり、とお辞儀をして応える。
「いやー、文化祭が終わったら一気に寒くなったな!」
そう言う彼の声は掠れている。
あぁ、私だけじゃなかったんだ。
昨日は、一日中呼び込みしたり、ライブで盛り上がったり、後夜祭で歌ったり……楽しかった。
その時間も、そのあと残った疲れも、この人と共有している。なんだかまだ夢を見ているみたい。
彼は自分の声のことをまったく気にしていないようで、私の隣の位置をキープしながら、ひっきりなしに話しかけてくる。
「なーんか、今日リアクション薄過ぎねぇ?具合悪い?」
覗き込まれ、心臓が飛び出そうになった。
思わず顔を背ける。
「それとも、俺のこと嫌い?」
いや、ちょっと待って。なぜ顔を近づけてくる?
近い!近いって!
「……ちが……こえ、あんま……でなくて……」
蚊の鳴くような声になってしまった。恥ずかしい。
「良かったぁ。せっかく仲良くなれたのに、嫌われたかと思った」
どくどくと、自分の心臓の音がうるさい。
期待しちゃダメ。
この人は、ただ、クラスメイトと仲良くなりたいだけ。
クラスの中心人物で、誰に対しても優しい彼のことを、ずっと密かに見ているだけだった。
彼は私と話したかったと言っていたけど、こうして気軽に話す関係になりたかったのは、私の方だ。
文化祭の準備で話すようになったけど、気がついたらそれ以上のことを望んでしまっていた。
それくらいは自覚している。
「片付け終わったあとの打ち上げ、来るよね?」
こくり。頷くと、彼は嬉しそうに笑った。
────声が枯れるまで
10/22/2024, 1:32:48 AM