髪弄り

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ーテレテテテテ、テレテテテ
無意識に手を伸ばし、音の方向を向くこともなく、スマホの画面を適当に押す。

喧しい音は一旦は収まるが、再びやかましくなった。もう一度止めようと試みたが、
もう学校行く時間よーと、母の声が聞こえたので、仕方なく、居心地の良いものを手放した。

「寒い」

寒気に堪えつつ、制服に着替える。
ふと、目に入るゴミ箱には、くしゃくしゃになった十二月という紙があった。

なんだか眼元にじりじりという感覚がやってきたので、洗面所で必死になって顔を洗った。頬から落ちる水滴が、目元の腫れを洗いながし、少しマシな顔になった。

ついでに床にそのままにしておいたルージュをとって、元の場所に戻した。



いつも忙しいのに今日は朝ご飯を作ってくれたみたいだ。母は、いつものスーツに着替え、そろそろ出かけるというところだった。

「おはよう、昨日よりは落ち着いた?」

「また何かあれば、お母さんに言ってちょうだい。私はあなたの味方だから」

「うん大丈夫、ありがとう」

母は靴を履いたところで、思い出したかのように振り返り、一言付け加えた。

「次はきっと良い出会いがあると思うわ」

幼稚園児にでもかけるような優しい声、
ほんの少しだけ、胸にあった重いものがとれたような気がした。

「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」

机の上の目玉焼きとご飯を黙々と食べ、
昨日こっぴどく振られたことを思い出す。
私というものがありながら、別の女を作った男。

本当に、ありえないくらい好きだったけど、今思えば、何が良かったのかわからない。

強引なところ?優しいところ?スポーツ抜群なところ?全部そう見えているだけで、
よくよく考えれば、他の人と大差ない。

優しさなんて、うわべだけで、いつも私は彼に従っていたような気がする。

まだもやっとする。

再びアラームが鳴り響く。
もう学校に行かないと。

「いってきます」
誰もいないけれど、まるで強がるみたいに声を張って、私は走った。

吹く風はとても冷たくて、だけど陽射しはさしていた。

『冬のはじまり』

11/30/2023, 10:49:11 AM