いしか

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何でもないフリをすることが、癖のようになってしまったのは、いつからだっただろう。

私はいつも気づかぬうちに自分の容量を超えてしまう。いい加減上手く付き合える様にならなければと思うけれど、それがまだ掴めずにいる。



…………なのに…。

なのに、この男には…………

「朝倉〜少し休憩してこ〜い」

この男、成林 豪(なるばやし ごう)には見抜かれてしまうし、気付かれる。

「大丈夫だから」

「駄目、はい休憩いってらしゃ〜い」

「ぐっ………………」

私は渋々自分の席を立ち、休憩をしに広場へと向かう。

珈琲を購入し、深くて柔らかいソファに座ると、疲れていた自分が顔をのぞかせる。

「…………何であいつにはわかるのよっ」

何だか腹が立つ、私の方が、誰よりも私自身と暮らして生きてきたというのに…。

どうして彼のほうが私の体の疲れに気が付くのか。


本当に腑に落ちない。

◈◈◈◈

「成林〜」

「うん?何?」

成林に声をかけたのは、成林、そして私と同期の近藤 学(こんどう まなぶ)だ。

「何でわかるんだ?」

「何が?」

「いや、ほら、小倉さんが疲れてるって…」

小倉とは、私の名字。

「うん?そんなの分かるよ。……というか、小倉は特にわかるし、分かりやすい」

「そうなのか〜?俺にはさっぱり」

「お前はわかんなくていいの。
それに、お前に分かられたら俺が困る」

「何でお前が困んだよ!」

そう聞かれた成林は、優しく笑いながらこういった。

「……秘密。」



そんな会話が密かに繰り広げられていた事は知る由もない私。

私は買った珈琲を飲みながら、静かに自分の疲れを癒やし、自分を労るのだった。

12/11/2023, 11:13:56 PM