「どうして……」
私は目の前の黒い物体を前にして、思わず口から言葉が出る。
どうしてこんなことに……
いや、分かっている。
私が悪いのだ。
私が目を離してしまったから。
目を離してはいけないと知っていたのに……
私は目の前にある黒い物体――肉じゃがだったものを見つめる。
二人の息子たちが、大好きな肉じゃが。
今日は特別な日ではないけれど、リクエストされたので張り切って作った肉じゃが。
でも今はただの炭の塊だ。
肉じゃがに限らず、火を使っている時にその場を離れてはいけない。
基本だ。
だけど、テレビから堂本君の結婚というパワーワードが聞こえたら、ニュースを見ない選択肢は無かった。
そのまま肉じゃがのことを忘れてしまい、しばらくして焦げた臭いがし始めたが後の祭り。
気づけば、肉じゃがは炭となっていた。
私は目の前の炭になったになった肉じゃがを見下ろす。
もうこれは食べられないだろう。
どれだけ見つめても、炭は肉じゃがにはならないのだ。
諦めるよりほかにない。
だが新しく料理を作るための材料が無い。
また買いに行ってくるにしても、すぐに息子たちは帰ってきてしまう。
野球の練習を頑張って、お腹を空かせた子供たちが。
どうすればいい?
私は自問する。
解決方法は一つあるが、デメリットが大きい。
可能ならば取りたくない、最後の手段だ。
他に方法は無いのか?
思考を加速させるが、何も思いつかない。
時間だけが無常に過ぎていく。
どれほど悩んだだろうか、玄関から物音する。
子供たちが帰ってきたのだ。
取りたくなかったが、最後の手段を使うしかない。
子供たちを玄関で出迎え、今日の予定を告げる。
「今日は外食だよ。シャワーを浴びて汗を流しておいで」
予定外の出費だが、これ以外に方法は無い。
下の子は何も疑わず、そのまま風呂場に向かう。
だが、上の子は何かに感づいたのか、私の顔をじっと見ていた。
「外食なんて珍しい。どうして?」
『君のような勘のいいガキは嫌いだよ』という言葉が喉まで出かかる。
危ねえ。
愛する子供に『嫌い』など口が裂けても言えぬ。
私は全力で誤魔化すことにした。
「さあ?どうしてだろうね」
1/15/2024, 9:42:12 AM