はた織

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「その、言うのが面倒臭くって、もうご飯食べて黙れば良いかなって」
 彼女は歯切れ悪く言ったが、何度も何度も咀嚼を繰り返している。甘だれがからむ鶏胸肉を噛み締めては、箸を白飯の中に突っ込んで、噛み切れるのを待った。物欲しそうに茶碗を見つめている。悲しげな顔をしながら、まだ噛んでいる口の中に、白飯を放り込んだ。次に味噌汁の中に箸を入れる。かき混ぜながら飲み込むのを待つも、苛立っているのか。椀を持ち上げて口に当てた。中身の詰まった頬がより膨らんでいく。そして最初に食した肉の副菜に箸を再びつけた。咀嚼が止まらない。箸の震えも止まらなかった。
 彼は、相手の言葉をずっと待っていたが、結局彼女が何を言いたかったのか分からなかった。彼女は、黙々と何かに焦りながら食事を続けている。咀嚼しながら、テーブルに置かれたパネルに触れて、次の料理を指先で突き刺すように注文した。
 彼が待っている間に、コップの中の炭酸はすっかり抜け切った。ただのぬるい水と化した液体に無機質な電灯が鈍く光る。
           (250803 ぬるい炭酸と無口な君)

8/3/2025, 12:59:05 PM