自転車をこいでいた。手のひらの汗でべたべたになるハンドルをわたしはこれでもかと握りしめた。
そんなんじゃ、なにも変わらないよ。
知っている、そんなこと。言われなくたって自分が一番よくわかっている。
やけに重いペダルを踏みしめて、坂をのぼる。
この先になにがあるっていうんだよ。
頭の片隅でそんな声がする。
周りには人っ子ひとりいない。きっとここで立ち止まったってだれにも気づかれない。
こんなことに意味なんかない。
数々の言い訳で逃げてきた。やらないといけないこと、やりたいことから逃げてばかりだ。
遅々として進まない車輪に、生ぬるい風が襲い狂う。
背中に汗がつたって、やがてじっとりとシャツに張り付く。不快だ、嫌だ、止まりたい。
それでも足を止めないのは、まだ諦めたくないからか。
あいつを見返したい。正論ばかり言うムカつくあいつをぎゃふんと言わせるんだ。
普段小難しいことばかりしゃべるあいつがぎゃふんだなんて絶対面白い。
力強くこいで、こいだ。頬を伝う汗になりふり構わず、前に進むことだけを考えた。
どれくらいたったのだろう。ようやくひらけた場所に出る。ここがゴールだ。
ペダルから足を離し、ぎこちない動きで水筒に口をつける。喉を通る冷たい水がこんなにもおいしい。
口の端からこぼれる水を手の甲で拭う。
やった、わたしやったよね。
どっしりと構える入道雲に向かってわたしはとびきりの笑顔でピースをした。
6/29/2024, 12:11:54 PM