—千年の時を超えて語り継がれる物語—
「君が待っているなら、帰ってくる」
彼は、こちらに背を向けて言った。
ここから遠く離れた『いなば』で働くことになった彼を、今とめなければ、離れ離れになってしまう。
だが、私は何も言えなかった。
いや、何も言えるはずがなかった。
戸を引き、彼は出ていった。
『いなば』は、思っているよりも、ずっと遠い。
もう二度と会えないかもしれない。
それでも私は、止めなかった。
私が彼の人生を縛ることはできないのだ。
数日経ち、風を便りに彼の歌が耳に届いた。
『たち別れ
いなばの山の
峰に生ふる
まつとし聞かば
今帰り来む』
外に生えている松の木を見た。
あの木のように、私は同じ場所にとどまり続けるのみ。
それが『待つ』ということだ。
だから、私はここにいる。
彼が帰ってくる、その日を信じて。
お題:1000年先も
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在原行平(ありわらのゆきひら)が、詠んだ歌です。女性視点で描いてみました。
2/4/2026, 6:25:29 AM